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東京地方裁判所 昭和57年(ワ)7232号 判決

原告

日南産業株式会社

右代表者代表取締役

岡田志郎

右訴訟代理人弁護士

雨宮正彦

被告

新見正

右訴訟代理人弁護士

市来八郎

右訴訟復代理人弁護士

井上猛

主文

一  被告は、原告に対し、金八二万四〇〇〇円及びこれに対する昭和五七年四月二五日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その四を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金六九〇万円及びこれに対する昭和五七年四月二五日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、被告に対し、昭和五一年六月から昭和五五年一二月までの間、合計八二〇万円を支払つた。

2  原告は、被告に対し、昭和五七年四月二三日、右金員のうち六九〇万円の返還を求める旨の催告状を発し、同書面は、翌二四日被告に到達した。

3  よつて、原告は、被告に対し、不当利得として六九〇万円及びこれに対する催告状が被告に到達した日の翌日である昭和五七年四月二五日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1、2の事実は認める。

三  抗弁

1  被告は、昭和五〇年七月一日、原告及び株式会社共立との間で次の条項を含む契約(以下「ノウハウ契約」という。)を締結した。

イ 被告は、被告が研究・開発した土壌浄化法に関するすべてのノウハウを原告に開示する。

ロ 被告は、原告が被告の開示したノウハウを活用し、関東地方において、生活排水を対象とするコンクリート現地施工浄化槽の企業化をすることを認める。

ハ 原告は、右ノウハウの実施料として被告に最終価格の五パーセントを実施の都度支払う。その支払要領については別途協議する。

ニ 契約書捺印と同時にノウハウ開示料として原告は被告に一〇万円を支払う。

また、被告は、同年一〇月一日、被告との間で、次の条項を含む契約を締結し、これらの内容をノウハウ契約に追加した。

イ 実施の地域を関西以東に拡大する。

ロ 先に契約の証として支払われた一〇万円に四〇万円を追加し、計五〇万円とする。

2  原告は、1の合意に基づいて、被告の開示したノウハウを利用して、昭和五一年一一月以降昭和五七年一〇月までの間に、別紙記載の汚水処理施設の工事を施工した。

3  被告が原告から受けた合計八二〇万円の支払いは、右合意によるノウハウの実施料である。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実は認める。

2  抗弁2の事実のうち、原告が別紙記載の汚水処理施設の工事を施工したことは認めるが、その余の事実は否認する。

3  抗弁3の事実は否認する。

五  再抗弁

1  被告主張のノウハウ契約は、昭和五一年五月、合意により解約された。

ノウハウ契約の合意解約に至る経緯は次のとおりである。

原告は、昭和五〇年七月一日のノウハウ契約の締結及び同年一〇月一日の同契約の追加契約の締結の都度、被告に対し、これら契約所定のノウハウ開示料として、それぞれ一〇万円及び四〇万円、計五〇万円を支払つたが、被告は、その後右契約にいうノウハウを原告に対し何ら開示しなかつた。そのため、原告は、昭和五一年三月から開始したいわゆる土壌式浄化槽の工事について被告から右契約所定の実施権料の支払いを請求されたが、ノウハウの不開示を理由にその支払いを拒絶した。その後、原・被告間において交渉が行われ、被告も原告主張を認めたが、その際被告は原告に対し特開昭四七―三六一五〇号の公開特許公報を示し、この発明は近く特許になるので、少なくともこれに抵触する範囲については特許料を支払うよう要求した。そこで、原告は、右公報の「特許請求の範囲」を検討したところ、原告の実施する土壌浄化法は右「特許請求の範囲」の第一ないし第三項の発明の技術的範囲に属すると考えられたので、被告との間に、右特開昭四七―三六一五〇号の発明につき、これが特許されることを前提としかつ原告の実施する土壌浄化法が同発明の技術的範囲に属する限り、原告から被告に対し、受注工事代金中特許対象部分の相当額の四パーセントの割合による実施料を支払う旨の契約(以下「特許契約」という。)を口頭で締結した。そして、原告及び被告は、右特許契約の締結と同時にノウハウ契約を合意解約した。

おつて、請求原因1記載の原告の被告に対する金員の支払いは、ノウハウ契約に基づくものではなく、右特許契約に基づくものであるが、前記特開昭四七―三六一五〇号の発明については、昭和五〇年一二月一日付けで同「特許請求の範囲」第一ないし第五項が分割出願され、同分割出願は昭和五二年一一月五日拒絶査定がなされ、同査定は、その後確定した。そこで右拒絶査定がなされた昭和五二年一一月五日の翌日以降実施した工法につき原告から被告に支払われた実施料は、原告としては支払う義務がないのに支払つたものである。被告は、不当利得としてこれを原告に返還する義務がある。

2  仮に、1の合意解約が認められないとしても、ノウハウ契約は昭和五五年一二月末日限り合意により解約された。

六  再抗弁に対する認否

再抗弁1、2の事実は否認する。

第三  証拠〈省略〉

理由

一請求原因について

請求原因1、2の事実は当事者間に争いがない。

二抗弁について

抗弁1の事実及び同2のうち原告が別紙記載の汚水処理施設の工事を施工した事実は当事者間に争いがない。

〈証拠〉によると、被告がノウハウ契約に基づき、原告に対し、土壌浄化法による汚水処理の諸問題について文書あるいは口頭で指示するなどしてノウハウを開示したこと、原告がこれを利用して別紙中の番号1、5、10、12、13、25、26、35、36、38、39、40、41、42、45、46、47、48、50、53、57、61、64記載の汚水処理施設を施工したことが認められ、原告代表者尋問の結果中右認定に反する部分は措信できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。また、別紙記載のその余の汚水処理施設については、原告が被告から開示されたノウハウを利用してこれを施工したことを認めるに足りる証拠はない。

三再抗弁について

(主位的主張について)

原告は、原・被告間のノウハウ契約は昭和五一年五月に特許契約が口頭で締結されると同時に合意解約された旨主張し、これに沿う原告代表者尋問の結果が存する。しかしながら、〈証拠〉によると、被告は、原告とのノウハウ契約及びその内容の一部を変更する旨の契約をいずれも書面で行い、また原告以外の多数の者との種々の契約もいずれも書面で行つていること、被告は、土壌浄化法に関して被告が発明・考案・開発した特許・実用新案・ノウハウ等を第三者に実施許諾ないし開示するについてはいずれも個々の権利ないしノウハウに限定することなく、広くそのすべてについて開示する旨の契約を締結していること、原・被告は、原告が合意解約したと主張する昭和五一年五月の約一ケ月後に当たる同年六月一日には、日本土壌化事業協会を加えて、ノウハウ契約と同趣旨の契約を書面で締結していること、更に原告は、昭和五四年九月一日、被告とともに、茨城県那珂郡東海村との間に被告が同村に対し土壌浄化法のすべての特許・ノウハウを直接又は原告を通じて開示する旨の契約を締結していること、以上の事実を認めることができ、これらの事実に照らせば、前記原告代表者尋問の結果は到底措信することができない。また、〈証拠〉によれば、原・被告間の関係書類に「特許料」と記載されている事実を認めることができるが、被告本人尋問の結果によると被告らは厳格な意味でこれを使用していたものではないことが認められるから、右記載のみをもつて原告主張の特許契約の存在を認めることはできない。

(予備的主張について)

〈証拠〉によると、原告は、昭和五六年初頭以降、グリーンフローシステムと称する従来の土壌浄化法による汚水処理方式から、土壌の持つ特性と工場生産の接触材とを組み合わせたソビオシステムと称する汚水処理方式に変更したこと、これに対し、被告は、ノウハウ契約中には原告は被告の指示に従う旨の条項があるにもかかわらず(ノウハウ契約中に右条項があることは当事者間に争いがない。)、この指示を行わないで、原告の右ソビオシステムが理論的にも行政手続的にも問題があるとして、埼玉県内の各市町村に対し「一切ノウハウ技術開発者及び特許権者側では責任を持ちません」との文書を送付するとともに、雑誌に原告のソビオシステムを批判する内容の論文を発表していること、原告は、昭和五六年一月以降ノウハウ契約所定の実施料を支払つていないこと、また被告は、原告から右のとおり実施料が支払われないにもかかわらず、その支払いを請求していないこと、以上の各事実を認めることができる。これらの事実からすると、原・被告は、昭和五六年初頭の頃、ノウハウ契約を黙示的に合意解約したものと認めるのが相当である。

〈証拠〉によると、ノウハウ契約締結以降その合意解約に至るまでの間に原告が被告に支払つた実施料のうち八二万四〇〇〇円が超過支払分であることが認められる。

四以上の次第で、原告の本訴請求は、八二万四〇〇〇円及びこれに対する催告状が被告に到達した日の翌日である昭和五七年四月二五日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官元木 伸 裁判官安倉孝弘 裁判官一宮和夫)

別紙〈省略〉

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